ドイツの劇作家、ベルトルト・ブレヒト(1898~1956年)の演劇手法に『叙事的演劇』というのがあります。各幕の開始前に、これから演じられる「あらすじ」が大書されたブラカードを掲げながら宣言する俳優が、舞台中央に登場します。
劇は、宣言どおり忠実に演じられます。観客は、日常何気なく行われている社会慣習や常識を客観的に鑑賞し、客体化する「異化効果」によって、社会問題を批判的に捉える手掛かりを得ます。
社会変革を演劇の使命と考える、ブレヒトならではの発案です。ブレヒトにとって、演劇そのものが自己目的化することはなく、岩波文庫の『読書子に寄す』を引用すれば「生活向上の資料、生活批判の原理を提供」することにあった、と推定されます。
翻れば、現下の日本の政権は、『叙事的演劇』の「政治版」ではないかと思われます。幕が始まる前の宣言は、「マニフェスト」(政権公約)であり、配役は「三党連立」に所属する政治家たちです。今回に限っては、民間からの閣僚の登用は、結果的に一切ありませんでした。
現段階では、「マニフェスト」通り政策が進行しつつあります。「観客」の一般国民も、マニフェストといった冊子を通読し、「上演プログラム」として手にしながら、政治が実施される課程を、客観的に、更には演劇批評家の解説付きで、批判的に鑑賞しています。
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