寺田寅彦の随筆集から、1934年(昭和9年)の『経済往来』11月号に掲載した、『天災と国防』を読みました。筆者本人は同年に逝去しているのですが、幅広い視野を兼ねる科学者として、また防災政策の要路にある者の立場から、防災の重要性を様々な角度から論証しています。現代に生きる我々に対しても、多くの警句を与えています。
防災と国防との、類似性や差異を叙述した上で、防災の優先性を説いています。が、それだけでは無いようです。既に日中戦争は始まっており、五・一五事件も2年前に発生しています。
著者は、冒頭で、「非常時」という言葉が「はやりだした」事に触れるなど、間接ながら軍国主義の台頭を意識して表現しています。それが、後々通常予想出来る範囲の「天災」を遥かに上回る「戦災」という「人災」となったことは事実です。
寺田氏が、防災対策の優先度を、軍備増強に勝ると指摘しているのは、単に防災を強調する為ばかりではなく、軍備増強を二義的なものとすることにより、暗に軍国主義の台頭を、慎重に批判しているものと思われます。
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