近代日本の科学者で、敢えて言えば地球物理学者として同時代では第一人者で、なおかつ夏目漱石門下生でもあった、寺田寅彦(1878年~1935年)は、サイレントからトーキーに移行する時代に、それまでの数十年の映画の歴史を踏まえて、映画の将来性について語っています。
随筆『映画芸術』では、冒頭近くで「映画は芸術と科学との結婚によって生まれた麒麟児である。」とし、映画の表現媒体としての未来の可能性や有望性について、現代から振り返っても的確な予想を行っています。
自然科学的な視点からの精密な検証もあり、人文科学からの文芸との比較論、そして大学教授として「官」に置く経験則から、社会科学的に現実的な論拠に立脚しています。思考過程でごく自然に湧き上がる該博な知識も、映画の本質を曲げる事無く、健全な用いられ方をしています。
寺田寅彦の他の随筆の題名でも、『映画時代』、『映画と整理』、『映画と世界像』、『映画「マルガ」に現れた動物の闘争』、『教育映画について』、『ニュース映画と新聞記事』といった熱心さで、『音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」』はまだ読んではいませんが、現代の映画評の題名としても通用しそうです。
それらと平行して、『映画雑感』といった、映画時評的な論文を継続的に『帝国大学新聞』や『文芸春秋』、『キネマ旬報』等の雑誌に掲載していたようで、元祖映画評論家でもあったようです。
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