1957年制作の大映映画『雪の渡り鳥』のDVDをパソコンで鑑賞しました。 長谷川伸原作で、主人公「銀平」を長谷川一夫、「お市」と「きく」の二役を山本富士子が演じていました。 脚本や監督は有名ではありませんが充実しており、原作の彫の深さもあって、当時の映画界の勢いをまざまざと見せつけられるような、見事な作品でした。
当時無名のレコード歌手、三波春夫の主題曲「雪の渡り鳥」も、1・2番と3番を分けて、銀平が下田へ向かう途上の伊豆の風物詩や、銀平が同心たちに連行される雪の場面に、効果的に活用されていました。
伊豆の下田を舞台に、渡世人の抗争を経糸に、恋模様を緯糸に組んだ筋書きの基本構造も明確で、その中の細やかな感情表現の個別の台詞も、それを語る主役・脇役の俳優たちも、映画というよりも舞台調子で、的確なものでした。
堅気で陽気な船大工の銀平が、阿漕な帆立一家との軋轢を経た抗争の矢面に立ちます。同時に、惚れ抜いた「お市」との擦れ違いから、弟分で「お市」の亭主となる「卯の吉」への逆恨みを持ち、その恨みが籠ったまま、帆立一家との抗争で幽鬼迫る立ち回りとなります。
後半は、3年後に下田に渡世人となって戻った銀平が、今は堅気の「卯の吉」の「女房」となった「お市」の為に、再び勃興した帆立一家と最終決戦となります。 究極的には、総ての罪障を一身に背負い、下田代官所のお縄に掛かり、雪の中、護送されます。
勇猛果敢で男気の強い銀平よりも、弱くておとなしい卯の吉を娘婿にと選ぶ、「お市」の父親の五兵衛の深謀遠慮も、私位の年齢になると理解できます。
明るく勝気な駄菓子屋(雑貨屋)の看板娘「お市」として登場する山本富士子は、後半では酒屋のおかみさんとなり、明るさはなくとも勝気さは残る演技もなかなで、銀平が異郷の地で出会う夜鷹の「きく」のすれっからしぶりなども、見事なものでした。
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