午後10時から10時45分まで、NHKテレビの番組「歴史秘話ヒストリア」の「たった一人のあなたへ ~『蟹工船』小林多喜二のメッセージ~」を視聴しました。
まず、小林多喜二(1903年~33年)の生きた時代の、写真や動画が意外と豊かに揃っており、それが映像化されました。「実録蟹工船」の映像の迫力には驚きました。テレビは表現上の多くの制約がある、ましてやNHKのような「公共放送」では尚更、と普段考えてきた私にとっては、目から鱗の落ちる思でした。
日本のプロレタリア文学の代表的な作品『蟹工船』や、国家的な思想弾圧の中で絶命した作者小林多喜二を、歴史の一エピソード(逸話)としてとして引用したテレビ番組は従来もありました。が、正面から取り上げた番組を電波に乗せたのは、NHKを始めとするに日本のテレビ文化の歴史の中で画期的、つまりエポックメイキングな実績となるでしょう。
現代の日本で、諸般の労働条件の劣悪化、労働者の疎外感の中で、小説『蟹工船』が流行し、NHKとしてもこの社会状況が無視できない存在になっている事実が、背景にあると考えます。番組の主題「たった一人のあなたへ」は、多くの社会的弱者に手を差し伸べた多喜二を、視聴者に浸透させる効果をもたらしそうです。勿論、そのような社会前提が、喜ぶべき事柄とは決して思えません。
私自身、従来の多喜二への理解、『蟹工船』への理解が、貧弱なだけでなく、多くの盲点を持つものであることを、いやが上にも思い知らされた格好となりました。たった29歳で亡くなった若者の事跡を、54歳にもなった自分が探求するのも妙な事ですが、今後多喜二の他の作品や文庫本にも編纂されている日記に触れる際でも、役に立つ情報を得られました。
ポピュラーとなった小説『蟹工船』と作家小林多喜二を、新たな視点から紹介し、多くの視聴者に、多喜二への導入手段を提供した企画は、大いに評価出来るものです。
多喜二は、夥しい赤旗に囲まれる政治運動の象徴的存在であったり、治安維持法や思想弾圧の被害者、あるいはそれらに対する闘争者、更には、自ら犠牲的な精神を発揮する「義民」として、後世の追随者を惹起する作用と期待を担わせられているのは事実でしょう。
しかし、厳かな堂宇の天蓋を撤去した満天の星の下で、あらゆる立場の人々から親しまれ愛される小林多喜二こそが、21世紀の小林多喜二在り方である、と愚考いたしました。
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