行政の政策的な判断には、時折絶妙なものがあり、ほとほと感心させられる場合があります。これは特に、新たな制度を導入する場合や、長年継続して慣例化した制度を廃止する場合、の節目に垣間見られます。
1989年に税制改革として『消費税』が導入された際の、『非課税業者』の納税除外がその好例です。当時、新制度を前にして、様々な社会不安があったのは事実です。こういった場合「経済的弱者を持って自認する」小規模な業者は、諸費税導入によって売上の減少や税負担の困難が懸念される、といった主張を特に強めました。
といっても、国が小規模の業者の売り上げだけを、消費税非課税取引とするわけにもいきません。そこで、成立したのが『非課税業者』です。課税取引が年間3千万円を以下の業者については、売上で消費者や取引業者から預かって本来納税すべき『消費税』分を、納税しなくても良い、免税とするとしました。
これで、消費税制度の導入に対する小規模が売上の業者の抵抗が、かなり和らいだと考えられます。むしろ、便乗値上げでの旨み目論んで、内心ほくそえんだ業者も多々あったか、と想像します。
ところがこの『非課税業者の特例制度』自体は、当然予想される社会的批判を惹起しました。すなわち、『課税業者』と『非課税業者』との不公平感です。
例えば一般消費者が買物をする度に、価格に上乗せする『3%の諸費税』は、当初はそれ自体に対して抵抗がありました。が、その『預かり分』を納税せずにしまい込める、小規模小売業者に対する、一般消費者や小規模でない小売業者の、より強い批判あるいは非難が始まりました。人間は、税の負担感よりも、税の不公平感の方が強いものです。
そこで政府は、非課税業者の範囲を狭くし、『より零細な業者』へと限定することにしました。2003年、消費税課税業者の免税点が3,000万円から1,000万円に引き下げられました。
これは当初からの、政府・大蔵省のシナリオであったと考えられます。最初は、小規模業者だけを除外しても、いずれ国民世論側からの圧力で、除外は絞り易く、消費税は幅広く業者から納税されるというわけです。
これに似た例を、本日夜、入間市中央公民館での利用団体への説明会の参加した私の妻からもらった、資料から見出しました。
来年4月から、市内各公民館で、利用団体や個人の公民館使用料の免除措置がかなり限定されます。免除率が97%から23%になるといった当初の方針もありました。一覧表を眺めますと、免除されなくなる大多数の団体の間に、意外な免除団体が散りばめられている、といった印象を強く持ちました。
行政が直接かかわる団体や福祉団体、PTAなど明らかに公共性のある団体が、使用料免除規定の対象となるのは当然です。ところが、かなり首を傾げたくなる団体で、使用料免除規定の「恩恵」を得ているものがあるのです。
しかし、行政にとって、このような団体に対する「使用料免除措置」は、かつての大蔵省の消費税導入の際の「非課税業者」と同じ作用を、今後もたらすものと推測されます。それは、「ノイジーマイノリティー」(騒がしい少数派)への政策の手本となるでしょう。
すなわち、「免除措置縮小」に対して大きな抵抗勢力が、「ノイジーマイノリティー」であったので、暫定的に今回は「免除措置」を温存します。ところがそうなれば今後、同種同当の目的で活動する圧倒的多数の「免除対象外」の、通常の使用料を「フェアー」に支払う団体からの、「白眼視」が始まります。
当然支払うべき公民館使用料を「何らかの工作によって」不当に免れた、とする非難が「免除団体」に集中するでしょう。これは、行政に対する批判よりも、強く働く事が想定されます。
純然たる福祉団体やPTA等の公共的団体以外の、「免除措置団体」は、いずれ存在の余地がなくなるだけでなく、「ノイジーマイノリティー」として、「不当に使用料を『免れようとして失敗した』」団体は、「汚名」を後世に残す可能性もあります。
かっての、消費税非課税業者は「多数派」であって、課税取引による売上額の免税点が明確でした。それに比較しても、公民館使用料の「免除団体」は少数派であり、免除基準が不明確であるだけに、不安定な存在です。
もっとも、ほんの一時だけでも「免除」の利益が得られるならば、それで「ラッキー」と考える、人もいるのかも知れません。
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