いかにも、日本のどこかの映画会社や外国映画の配給会社の宣伝担当辺りから発生したような言葉に、「総天然色」という修飾語がありました。昔の映画ポスターには大書してあったものです。後年、テレビの洋画劇場の名解説者となった淀川長治氏であったでしょうか。
要するに「カラー」のことですが、翻訳の妙味を感じます。確かに「色付き」では味気なく、「色メガネで見る」といった、別の意味に連想されるでしょう。それにしても「天然色」といわずに「総天然色」というところを、更に味わうべきところでしょう。
たしかに、部分的にカラーで、白黒の部分もある映画もありました。「完全色付き」あるは「完全天然色」として区別するのも、「品質表示」として、商品差別化に必要ではありました。そうならば「総天然色」が、キャッチフレーズとしだけではなく、語感としても落とし所であったかと考えます。
更に付け加えれば、昔のカラー技術はなかなか凝っていて、あるいは面白く未発達なところがあり、実際の色よりもはるかに鮮やかなところが、最大の特長あるいは問題点でした。
今晩、厳密に言えば深夜の午前まで、インターネットのユーチューブで、1939年制作のアメリカ映画『駅馬車』を総天然色で鑑賞しました。ジョン・フォード監督、ジョン・ウエイン主演の極め付西部劇です。この映画は白黒映画であったはずで、「総天然色」と申し上げたのには訳があります。
決して再映画化でも、撮り直しでも、まさか同時並行的にカラー版を制作したものでもありません。1992年に劇場公開用かビデーオテープ販売目的で、1939年の白黒映画をカラー化の加工したものが、53年後に作られたようです。ユーチューブで最初から最後まで鑑賞出来てしまうので、著作権の問題もあるかとは思いました。
しかし、白黒場面の濃淡から、自然の空、雲、太陽、荒野、町並み、駅馬車、登場人物の服装、原住民の服装などなどが、時代考証の末に「合成着色」されたようです。ジョン・ウエイン扮するリンゴ・キッドは、青いジーンズに、赤茶色のシャツのいでたちでした。画面も引き締まり、音声も聞き取り安くなっています。
これまで見事に再現されれば、歴史的名画は、当時の撮影カメラの白黒フィルムから開放され、撮影時点に遡って、カラーフイルムに撮影対象(被写体)が焼付けられたと、同様の意義があると考えました。
音声についても、性能の向上したマイクロフォン、音楽もスタジオで高度の技術で録音されたことになります。これら全ては、名作映画を発展的に再構築する行為であり、映画を発展させ、正しい理解にも貢献すると考えました。
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