ドイツの文豪ゲーテ(1749~1832)の主著『ファウスト』は、世界文学の最高峰であると、私は30数年来考えています。その価値判断は、いかなる時期でも、いかなる場合でも、揺るぎの無いものです。近頃は、大分鈍ってしまった私のドイツ語力ですが、今でも『ファウスト』は、部分的に原文のドイツ語での暗唱朗読が可能です。
そもそも私は、20歳台の頃には、『ファウスト』を理解する為、それだけの為にドイツ語を学習しても、「わが人生に悔い無し」、と考えていた位でした。
主要な登場人物の悪魔メフィストフェーレスの言葉に、「常に(邪)悪を欲して常に善を為す、あの作用の一部ですよ」との、自己紹介があります。原文では、「ein Teil von jener Kraft,die stets das Boese will und stets Gute Schafft 」となります。
政治の世界で考察すれば、個別の政治屋や圧力団体の主張が、私利私欲といった「悪」であったとしても(それば通例ですが)、真の政治家は、それを熟知した上で、それぞれの要求を半ば取り入れ、なおかつ、それぞれの主張を何らかの正当性で飾り、全体の調整の中で、相互の利害といった矛盾を弁証法的に止揚して、「善」となすべきなのでしょう。
メフストフェーレスが、敢えて「作用の一部」といった意味が、私は、30数年を経て理解出来るようになって来たようです。
すなわち、政治屋や圧力団体の主張は、所詮偏頗なものであり、全体の利益、整合性、調和を前提としてはいないものなので、「全部」では無くて「一部」に止まるものなのです。