ここ数日の間、夜から深夜にかけて、インターネットのオンデマンド配信で、1960年前後に作られた4つの松竹映画を、ある程度系統立てて鑑賞しました。
一つのグループが、松本清張原作の映画化作品で、もう一つのグループが、山田洋次監督の初期の二作品です。
松本清張原作の方は、1957年制作の『顔』と、1958年制作の『張り込み』です。
『顔』は、傷害致死事件の犯人と目撃者の、接点での双方の思惑違いや背景の不条理さが、ファッション業界の虚構の構造や、虚栄の人間模様と、かつて組合組織に利用された経験のある目撃者の孤独とを、対比しながら浮彫にしています。
『張り込み』は、殺人犯を追う二人の刑事の、旅館の二階から俯瞰した、犯人の元恋人の平凡な生活が長々と描写され。 犯人登場後の急転直下の解決に至るまでの若い刑事にの焦燥をスリリングに描いています。 犯人と犯人の元恋人の模様の凝視は、客観的に描かれるだけでは無く、恋人のあるべき姿として手本ともなり、若い刑事自身の恋人との私的事情について、一世一代の決心に至る動機付けに絡めています。 橋本忍の脚本の奥行きを感じさせます。
山田洋次監督の監督第一作『二階の他人』(1961年)は、郊外に一戸建ての新居を構え、家賃収入を当て込んで、2階に間借り人を住まわせた事の顛末です。 二階建て建物の構造として、後の『男はつらいよ』の「おいちゃん、おばちゃん」の団子屋の「とらや」の二階の寅次郎の部屋を連想させます。 「とらや」では時折、家賃収入や御前様などの要望により住人を住まわせます。 この作品は、さくらや博、光男、社長(梅太郎)その他を交えた、イレギュラ-な家族構成の『男はつらいよ』の一つの源流です。
監督第二作『下町の太陽』は、倍賞千恵子のヒット曲の映画化で、山田監督の本格的商業映画路線の第1作です。 現在に至る「売れる監督」としての、監督寿命の長さの源です。 山田監督とスター倍賞千恵子の長年のコンビの、初作品です。
荒川の土手を歌いながら歩く倍賞千恵子は、そのまま、江戸川の堤防を「男はつらいよ」ぼタイトルバックで歩く渥美清に繋がります。
付言すれば、ハナ肇の「馬鹿シリーズ」は、かつての名作『無法松の一生』が,下地にあり、それらすべての要素は、「寅さんシリーズ」へのと、合流しているのでしょう。