おそらく3回目となるかと思いますが、近代日本の科学者で随筆家の寺田寅彦の『天災と国防』を読みました。1934年(昭和9年)に、経済雑誌に掲載する形で発表したものです。
「非常時」といった言葉の流行を冒頭に掲げ、来るべき総力戦を予感した上で、そうならばそれよりも自然災害への防災対策が優先するであろう、と論じながら、軍国主義の不気味さを批判的に暗喩しています。
現代の視点に立つ我々は、その後未曾有の対外戦争で日本が人的にも物的にも大いに荒廃する、といった歴史的な結果の事実を照らし合わせる事が出来ます。 暗喩の予想の言わば一致度を、冷静に計測出来ます。それで、この論文の時代制約の限界の範囲を確定したつもりにもなれます。
ところが、寺田寅彦の慧眼ぶりは、恐れ入る程、我々の思惑を超えているのです。優れた科学者であり人文学者の素養も十分な人物の随筆は、時代を超えた存在です。
新型コロナウイルス感染の災いに、有効な対策を講ずる事が出来ず、予想されるトラフ地震災害の発災時期や規模の、予想の不確実性を身に染みているのが現今の我々の有様です。
考えるヒントや理性的な行動の原理を、何とかして寺田寅彦の叡智から、この警世の論文の中から見出したい願望に、我々は浸るのです。
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