同じ評論家の講演でも、時が移れば講演内容も変わるのが自然でしょう。2008年4月と2012年4月とで、前回ではかなり激高した語り口であったものが、今回は「時宜を得た」とばかり、ゆとりをもった語り口となるのは、時代の事情に変化にもよる様です。日本の国際的な政治情勢を例示すれば説明無用とばかりに、「皆さんご承知の通り」となります。
元NTVテレビのニュースキャスターで、かつてアンカーマンとして様々な出来事を的確に伝え、適切な論評を添えてきた、桜井よしこさんの講演会を、4年ぶりに視聴しました。
前回は「改憲派の論客」といった側面が前面に出ていましたが、今回は「改憲」は最後に取っておいて、皆さんの知らない「憂慮すべき現実」といった独自の提示と論評、対応策が主なものでした。
前回では、中国とはいわずに、「中国共産党」と呼び、その「軍事優先」を強調していました。今回では、冒頭に「中華人民共和国」途中からは「中国」と、国際標準(グローバル・スタンダード)的な用語を用い、軍事よりも「経済による(巧妙な)侵略」を、新たに打ち出し、提示しました。
前回では、「北京オリンピックのボイコット」を呼びかけていましたが、今回も、日本国内の土地が中国人に売られるのを、阻止するように世論を盛り上げるようです。
しかし、相対的な相違を、絶対的な格差としたり、類推による事実誤認と思われる、資料も提示していました。例えば、台湾から本土へ、150万人の出稼ぎ労働者があり、妻や子ども2人を含めると、4倍の600万人が中国経済に依存して生活が成り立っている、といった独自の「論証」です。
出稼ぎ労働者が総て既婚者である訳は無く、事の性質上独身者の割合が多いものと、容易に推測されます。それに、子どもの数も1世帯で平均2人というのも、多過ぎるでしょう。
前回は全く触れなかった、朝鮮半島については、北朝鮮の日本海側の都市の港の一部を中国が「租借」したといった情報を中心に、北朝鮮内を東西に横断して、中国から日本海への港への直接のアクセスを取り上げましたが、韓国については現政権を「左翼的」という言葉で一蹴したに過ぎませんでした。イ・ミョンバクのイの字も出ませんでした。
対立する考えを理解して、これを一部でも取り入れて、自論との葛藤の中で、止揚して新たな論理を構築するといった方法論とは無縁らしく、異論は「論外」、「問題外」として、煽動的な論旨が、いとも簡潔明瞭に、円滑に羅列されました。
歴史についても、全体の一部を都合よく剽窃し、一方的な解釈を加えました。事実関係の検証は抜きです。歴史上、中国が異民族支配の時代を除いて、日本にまで侵略の手を伸ばした事例は皆無ですが、このような事実は、未来志向から言えば、取るに足らない例証か傍証となるようです。
戦争のもたらす災厄について、一切顧慮しません。かつての日本軍の中国への「軍事進出」に伴う、「過ち」を、どのような組織でも多かれ少なかれ有る事と、割りきって述べるのですから、論旨を真に受ける視聴者は少なく、野党自民党への景気付け的な扇情的演説、と割り切っているものと想像はしました。